パンドラの箱を開けるとき

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「……たかお……」 彼の姿を確認した瞬間、唇から零れた名前。 知らなかった。 私、耳や鼻だけじゃなく、目もいいんだ。 こんな遠く、暗い中でも、ハッキリとその姿が見えるくらい。 ――車から降りてきたのは、間違いなく高雄だった。 高雄は、少し険しい顔つきで、迷うことなく勝手口の前に立つ。 ……いやだ、見たくない。 そうは思うのに、私の視線は、彼に焦点が合ったまま動かせないでいる。 慣れた様子で、高雄がインターホンを押した。 そして、彼を待たせることもなく、そのドアはすぐに開かれる。 「―――」 「……信頼、崩壊」 隣で、向上先生の終わりを知らせる声。 その通り、だと思った。 ドアの向こう側にいたのは―――峰岸先生。 ふわふわのウエーブヘアを揺らして、彼女は抱き付くように高雄の腰に手を回した。 高雄は、それを拒むことなく。 彼女に覆い被さるようにして、中へ入っていく。 そして。 ドアが閉まった。 ――甘い香りを、閉じ込めるように。
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