事実と真実は違う

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それから家に着くまで、私も向上先生も、何も話さなかった。 うちから大通りまでの細い一本道。 本家の玄関の真ん前じゃなく、少し過ぎた所で、向上先生は車を停めた。 「……失礼します」 小さく会釈をして、顔を上げないままドアノブに手をかける。 「凛々ちゃん」 「…はい…」 「これから、どうするの?」 そう声をかけた向上先生に、ふざけた様子はなくて。 私は、何も言えずに唇を噛む。 「これでも、加賀のことは憎めない?」 「……」 黙って、首を振る。 高雄が私に嘘をついてた事実を目の当たりにして、ただただ、悲しいだけで。 なのに彼を嫌いになったり、離れたいと思えないから、辛いんじゃない。 向上先生が、小さく息をついたのが、雰囲気で伝わった。 「残念。 これくらいの裏切りで加賀を忘れられるなら、凛々ちゃんも軽い傷で済んだのに、そういう訳にはいかないか」 「……」 「凛々ちゃん」 「……はい……」 「俺が知ってる加賀の罪は、もっと残酷だよ」 「……」 「これから先、もっと悲しいことが待っていても。 …それでも、こっちに来るつもりはない?」 「……、だっ、て……。 向上先生、だって……」 「ん?」 「……私を、好きなわけじゃないでしょう……?」 「………」
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