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この人が、判らない。
どうして私に、こんなに執着するのかが。
「……凛々ちゃんは可愛いし、好きだよ。
だけど恋い焦がれていると言う意味では、違うね」
「…なのに、なんで……“こっちに来い”なんて言うんですか…?」
「最初から言ってるだろ?
救ってあげるからって」
肩を竦めて薄く笑い、向上先生は続けた。
「もし、あんたに加賀の他に気になる男がいたり、もしくは加賀から奪ってやろうってくらいの情熱がある男が他にいるなら、別に俺の出番はなくてもいいわけ。
けど、そんなヤツはいないだろう? 残念ながら」
「……」
「でもね、凛々ちゃん」
向上先生が、こっちに体を向けた。
「あんたが俺を選ぶなら、適当に扱う気はない。
加賀なんて忘れるくらい、大切にするよ」
「向上…先生…」
真剣な眼差しに、ドクンと心臓が鳴った。
ときめいた、とか、そんな淡く甘い感情なんかじゃなく。
言うなれば、それは―――警鐘。
「凛々ちゃん」
向上先生の綺麗な顔が、ゆっくりと近付いてくる。
トン……、と背中に、窓ガラスの冷たい感触。
あ、と思ったときには、向上先生の両手がこっちに伸ばされて、彼は私を囲うように、その窓ガラスに手をついていた。
「俺のものになる?」
「――……」
疲れ果てた頭と心の中に浮かんだのは、2つ。
逃げなくちゃ、と焦る気持ちと。
このままこの人に流されれば楽になるのかな、という――諦めの気持ち。
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