3613人が本棚に入れています
本棚に追加
/244ページ
向上先生が、口の中で小さく舌打ちをした。
ハッとして、あわあわと慌てふためく私。
ガンッ。
「帰りましょう」
微笑みは崩さず、またドアを蹴る洋介さん。
ちょっ……。
いくら車種に詳しくない私でも、これがベンツだってことは判るんですけど……。
「…ケンカ売ってんのか、ガキが」
「あっ、あああのっ」
眉間にシワを作って目を鋭くする向上先生に、慌てて弁解しようとする。
……と、また。
ガンッ。
…ひぃっ。
「ごめんなさい、あのっ。
うちの住み込みさんなんですっ!!
降りますね!」
とにかく早口で捲し立てて、ドアに手をかける。
すると洋介さんが外から勢いよくドアを開け、少し屈んで車内に顔を覗かせた。
「無断でうちのお嬢さんに手を出されちゃ、困ります。
それもこんな家の近くで」
「うわわ、洋介さん…っ」
洋介さんに腕を掴まれ、外に引き出される。
険しい顔を向けていた向上先生は、にこにこと余裕気に微笑んでいる洋介さんに感化されたのか、やがてふっと小さく笑った。
「……なぁんだ。
凛々ちゃん、ちゃんといるんだね。
そういう男が」
「い、いや、あの…っ」
「……」
最初のコメントを投稿しよう!