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「…洋介さん」
「ん?」
「……なんで、ここにいたんですか」
また泣きそうなのを誤魔化すように、そう訊ねた。
洋介さんは相変わらず優しい表情で、家の方をくいっと顎で示した。
「そこの窓。
俺の部屋なんだよ」
「……あ」
言われて見ると、確かに。
この道に面した所に、住み込みさんたちの部屋があることを、今さらながら気付いた。
「加賀さんが車で出掛けたのがたまたま見えて。
それで、何となく、“凛々ちゃんは独りで離れにいるんだな”なんて考えながら、そのまま外を眺めてたら。
凛々ちゃんが、誰かの車に乗っていくのを目撃しちゃったわけ」
「…そ、か…」
「気になってね。
窓に張り付いて帰りを待ってた」
冗談ぽく肩を竦める洋介さんに、私は気まずく微笑んだ。
「まさか、凛々ちゃんが探偵まがいのことしてるとはね」
「……」
他意なくそう言いながら、洋介さんはジャージのポケットから、何度目かのタバコを取り出す。
「加賀さんのことだけど…」
暗い闇の中。
ライターの紅い炎が、ジジ…、とタバコに火をつける。
「見たままを、鵜呑みにしない方がいい」
「……え?」
「事実と真実は違うからね」
意味が分からない。
そう言いたげに洋介さんを見ると、彼は白い煙を吐きながら、横目でこっちを見た。
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