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「今のだと、あの車からの凛々ちゃんの顔は死角になる」
こっちに傾けていた体勢を戻した洋介さんがそう言うのと同時に、私たちの前を車が走り去った。
私はまだポカンとしながら、洋介さんの肩越しに、過ぎ去って行った車のテールライトを眺める。
「もし、あの車に乗ってたのが加賀さんで、今の状況を見てたらどう思う?」
「……は? え、と……」
まだ頭は混乱してるけど、無理矢理ぐるぐると考える。
私の後頭部から見ると、洋介さんは顔を傾けて、重ねて……。
「……き、キスしてるように、見える……?」
「まぁ、したけどね。
実際」
“キス”というワードをやっとの思いで口にしたのに、洋介さんは呑気に笑う。
「ち、ちがっ…。
だって、頬っぺた……!!」
「うん。
でも、“キスした”ってのは事実」
「……あ…」
「こんな話の流れで、ドッキリみたいに、いきなり頬にキスされました、って言うのが、凛々ちゃんの真実、かな」
「………」
なんとなく、話が見えてきた。
頬を押さえたまま、気まずくて黙り込む。
「でも、向こうからしたら唇にキスしてたように映る。
凛々ちゃんは驚きこそすれ、抵抗なく受け入れて、ね」
「……う、ん……」
「凛々ちゃんがいくら真実を言っても。
加賀さんが見た事実だけを信じて、凛々ちゃんを“嘘つき”だって言い張ったら、とりつく島もない」
「………」
その言葉を聞いて、洋介さんが言いたいことが、やっとクリアになった。
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