事実と真実は違う

12/15

3613人が本棚に入れています
本棚に追加
/244ページ
「加賀さんの言葉だけを信じるか、周りに見せられた事実を信じるか。 それは、凛々ちゃん次第だけどね」 「………」 最後の手綱は丸投げして、洋介さんは持っていた携帯灰皿にタバコを入れた。 小さな財布みたいな形のそれは、吸い殻で一杯になってる。 「で、どうしようか?」 のんびりと立ち上がり、そう訊いてきた洋介さんを、目で追いかけながら首を傾げた。 「……、え…?」 「今から。 離れに戻るの? それとも、こっちの母屋で寝るの?」 「……あ……」 「何なら俺の部屋でもいいよ」 「……それだけは、さっきも言ったように遠慮しとく…」 洋介さんの部屋に行くのは抵抗もないし、何よりおかしな心配もしなくていいんだけど……。 ただ、前みたいに高雄に大目玉を食らうと、本当に洋介さんが出て行かされかねない。 私の返事に肩をすくめながら、洋介さんはいたずらっぽく笑った。 「そう。残念」 「洋介さんに迷惑かけたら困るもん…」 「あれ、そっち?」 「え?」 「いや、なんでもない」 「?」 何故か苦笑いをする洋介さんにキョトンとしながらも、「行こうか」と背中を押されて、とりあえず離れに戻ることにした。 高雄がまだ帰ってなくて、安心したような、また胸が傷んだような。 離れまで送ってくれた洋介さんにもう一度お礼を言って、母屋までの短い距離を見送った。 その最中、洋介さんが、 「加賀さんが好きだからって、男として見られてないとはね。 俺、ゲイじゃなくてバイだって言ったのに。 ……凛々ちゃんだって許容範囲にいること、判ってないんだな」 なんてことを困り顔で呟いてたのは、私は知るよしもなかった。
/244ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3613人が本棚に入れています
本棚に追加