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「加賀さんの言葉だけを信じるか、周りに見せられた事実を信じるか。
それは、凛々ちゃん次第だけどね」
「………」
最後の手綱は丸投げして、洋介さんは持っていた携帯灰皿にタバコを入れた。
小さな財布みたいな形のそれは、吸い殻で一杯になってる。
「で、どうしようか?」
のんびりと立ち上がり、そう訊いてきた洋介さんを、目で追いかけながら首を傾げた。
「……、え…?」
「今から。
離れに戻るの? それとも、こっちの母屋で寝るの?」
「……あ……」
「何なら俺の部屋でもいいよ」
「……それだけは、さっきも言ったように遠慮しとく…」
洋介さんの部屋に行くのは抵抗もないし、何よりおかしな心配もしなくていいんだけど……。
ただ、前みたいに高雄に大目玉を食らうと、本当に洋介さんが出て行かされかねない。
私の返事に肩をすくめながら、洋介さんはいたずらっぽく笑った。
「そう。残念」
「洋介さんに迷惑かけたら困るもん…」
「あれ、そっち?」
「え?」
「いや、なんでもない」
「?」
何故か苦笑いをする洋介さんにキョトンとしながらも、「行こうか」と背中を押されて、とりあえず離れに戻ることにした。
高雄がまだ帰ってなくて、安心したような、また胸が傷んだような。
離れまで送ってくれた洋介さんにもう一度お礼を言って、母屋までの短い距離を見送った。
その最中、洋介さんが、
「加賀さんが好きだからって、男として見られてないとはね。
俺、ゲイじゃなくてバイだって言ったのに。
……凛々ちゃんだって許容範囲にいること、判ってないんだな」
なんてことを困り顔で呟いてたのは、私は知るよしもなかった。
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