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「…今、離れのガレージの前に、辰巳がいたよ」
「……っ」
洋介さん……。
あのまま、部屋に戻ったのかと思ったのに……。
「あいつ、笑顔で釘を刺しやがった。
“お嬢さん泣かせるんじゃ、加賀さんはいる意味ないですね”だと。
……流石に、今日は何も言い返せなかったよ」
ハッ……と、どこか自嘲的な息が、高雄から零れた。
洋介さんは、高雄にどこまで話したんだろう。
向上先生のことも……全部?
ドクンドクンと、心臓がうるさい。
だけど今さら高雄に顔を出せるはずがなくて、じっと息を潜める。
「こんな日に、……一緒にいてやれなくて、ごめん」
高雄は、ゆるゆると布団越しに私の頭を撫でる。
「行かないでって言ったのに、…お嬢を選べなかった俺が、こんなこと言う資格ないけど…」
「……」
「それでも。
……他の男に、頼るなよ……」
きっと、高雄は甘い香りを纏ってる。
峰岸先生の印を身体に残して、…どうしてこんなに、切ないことを言うんだろう。
「…お嬢は、いつも肝心なことを訊いてくれないね」
肝心なことって、なに?
唇を噛みしめて心の中で訊くと、まるでそれが聞こえたみたいに、高雄が口を開く。
「“いつもどこに行って、何をしてるの”って……。
一度だって、核心に触れて訊いてこない。
訊かれなきゃ、言えないこともあるのに」
ひどく苦しそうなため息が、上から聞こえた。
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