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「……生田さん……」
目を瞑って、早く恵那が来ないかな、と思っていた私の頭上から鈴のような声が落ちてきた。
同時に鼻を掠める、甘い香り。
「…生田さん、おはよう」
耳に宛がっていた手を離し、顔を上げる。
誰か、なんて、嫌でも判る。
「ごめんなさい、…起こしちゃったかしら…?」
「……いえ……」
峰岸先生だ。
ただ、いつもみたいな朗らかな笑顔はなく、どことなく物憂げな表情を浮かべている。
「……何ですか?」
すっ、と目を逸らしながら、ぶっきらぼうに訊ねる。
……いやだな。 知らなかった。
私、こんな二面性があったんだ。
昨日の、高雄を部屋に招き入れる峰岸先生を見て、今までになかった感情が生まれてる。
それを当の本人に隠せてないのが、子供なんだって判るけど。
「…うん、あのね…」
「はい」
困ったように言葉を濁す峰岸先生が、やけに癪に障る。
今、私を色で例えると、真っ黒。
何を見ても聞いても、悪いようにしか取れない。
こんな自分、嫌だ。
目も合わせない私に戸惑っているのか、峰岸先生は暫く黙っていた。
そして、小さく息を吐いたと思ったら、
「間違いだったらごめんなさい。
昨日の夜、あなた、私の家の前にいた…?」
と、控えめに言った。
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