鍵を握るのは、眠る人。

3/4

3613人が本棚に入れています
本棚に追加
/244ページ
「……生田さん……」 目を瞑って、早く恵那が来ないかな、と思っていた私の頭上から鈴のような声が落ちてきた。 同時に鼻を掠める、甘い香り。 「…生田さん、おはよう」 耳に宛がっていた手を離し、顔を上げる。 誰か、なんて、嫌でも判る。 「ごめんなさい、…起こしちゃったかしら…?」 「……いえ……」 峰岸先生だ。 ただ、いつもみたいな朗らかな笑顔はなく、どことなく物憂げな表情を浮かべている。 「……何ですか?」 すっ、と目を逸らしながら、ぶっきらぼうに訊ねる。 ……いやだな。 知らなかった。 私、こんな二面性があったんだ。 昨日の、高雄を部屋に招き入れる峰岸先生を見て、今までになかった感情が生まれてる。 それを当の本人に隠せてないのが、子供なんだって判るけど。 「…うん、あのね…」 「はい」 困ったように言葉を濁す峰岸先生が、やけに癪に障る。 今、私を色で例えると、真っ黒。 何を見ても聞いても、悪いようにしか取れない。 こんな自分、嫌だ。 目も合わせない私に戸惑っているのか、峰岸先生は暫く黙っていた。 そして、小さく息を吐いたと思ったら、 「間違いだったらごめんなさい。 昨日の夜、あなた、私の家の前にいた…?」 と、控えめに言った。
/244ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3613人が本棚に入れています
本棚に追加