3613人が本棚に入れています
本棚に追加
/244ページ
「……っ」
びくっ、と、肩が揺れた。
指先から体温が、どんどん抜けていく。
「……やっぱり、生田さんだったのね」
沈黙を守ったはずなのに、それは肯定しているのだと、峰岸先生は言わんばかりにそう呟いた。
「家の前の、細い路地。
見慣れない車が停まってると思って、よく目を凝らしたら……。
男の人と、一緒だった?」
「…あ、あの…っ」
一緒にいたのが向上先生だとは、気付かれてなかったみたいだ。
言い訳なんて出来ないのに、慌てて弁解しようとする私の目に映ったのは、峰岸先生の悲しげな表情。
眉を垂らして、思い詰めたようなその顔に、思わず息をのむ。
「…ごめんなさい…」
謝罪を口にしたのは、峰岸先生の方。
私はただ、じっと彼女を見上げるとしか出来なかった。
「私、高雄は生田さんに全部話してると思ってたの。
なのに、何にも話してないんだって、昨日、高雄に聞いて…。
あんな場面、驚いたでしょう」
「……っ」
初めて、峰岸先生の口から“高雄”の名前を聞いて、泣きたくなった。
私と同じくらい、……ううん、きっとそれ以上に。
彼女は、高雄の名前を、呼び続けて来たんだ。
「…高雄、とは……」
まさか、朝の教室で。
こんな核心的なことを、本人に訊ねることになるなんて、思わなかった。
「高雄とは……付き合ってるんですか……?」
最初のコメントを投稿しよう!