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月曜日の朝っぱらから、大嫌いな納豆を食卓に並べた張本人をじろりと睨んだ。
「高雄、お水もっと頂戴」
ずいっ、と、空になったグラスを押し付ける。
向かいに座る納豆を出した張本人、高雄はため息をつきながら水を注いでくれる。
「お嬢は相変わらず納豆だけは無理なんだな」
「あのネバネバと臭いは一生かかっても愛せない!
うー、水じゃダメだ!歯磨きしてくる」
立ち上がって洗面所に向かう私の背後から、高雄の押し殺したような笑いが聞こえる。
「可愛いねぇ、お嬢は」
――明らかに小馬鹿にした笑い。
それなのに、『可愛い』の言葉に、さっきまでのイライラがふにゃ、としぼんでしまう。
…納豆の恨み、敗れたり。
念入りに歯磨きを終えてから、リビングの窓を全開にする。
朝の日課だ。
こうすることで、向かいに建つ大きなお屋敷が見える。
琴三味線、生田流家元の総本家。
日本各地から、とまではいかないけど、琴と三味線の師範の免状を得るために、色んな人が家元の所に訪れている。
家元は実際に演奏を聴いて、免状を出すかを決める。
それが、私のおじいちゃん。
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