驚きの再会

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「家元、よろしくお願い致します」 ピシっ、と背筋を伸ばし、家元であるおじいちゃんを前に、指を三つ揃いにして頭を下げる。 目を閉じたまま、口元だけ笑みを浮かべて家元は静かに頷いた。 おじいちゃんと言えど、稽古を付けてもらうときは家元と弟子の関係だ。 稽古の時と、家族として接する時、挨拶や言葉使いなどは普段から使い分けている。 「…そこ、もっと歌うように」 「はい」 「違う。まだ、譜面を見てるだろう? 間の取り方が遅いのに、手元が焦ってバラバラだ。 …ほら、チントン、コロリン……」 まるで赤ちゃんを寝かしつけるように、優しく調子を口ずさむ家元。 その目は緩く閉じられたまま、開いてこちらを見ることはない。 ……おじいちゃんは私が生まれるずっと前から、目が見えないから。 それでも、私が譜面を確認しながら弾いていることを分かってしまう。 耳だけを頼りにこの流派を束ねてきた家元だからこそ、微かな違いや気持ちまでも汲み取られてしまうから、中途半端は出来ない。 .
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