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生田流家元のご令嬢、それが私。
本来跡取りであるはずの母は、なんというか…自由な人で。
琴や三味線の道を極めるよりも、実業家としての方が性に合っているらしく、妹夫婦におじいちゃんを任せて自分は国内外を忙しなく飛び回っている。
叔母さんたちに一応気を使って敷地内に『離れ』と称して建てたこの家に帰るのは、年に数えるほどだ。
最後に会ったのは…いつだったっけ。
「あ、住み込みさんの練習始まった。」
全開にした窓から、風にのって琴の音色が流れてくる。
『住み込みさん』とは、その名通り、本家で居候しながら家元であるおじいちゃんに稽古を付けてもらう弟子のこと。
お茶会の時には、荷物持ちや準備など、家元の付き人としての役割も兼ねる。
本家には叔母さん夫婦とおじいちゃんの他に、その住み込みさんが3人ほど暮らしていて、毎朝8時ぴったりに一人目の練習が始まるのが日課。
窓を全開にした理由はこれ。
その音色を合図に家を出る。
ジャスト8時の、あたしの時計代わり。
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