驚きの再会

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すぐに高雄が出てきて、私たちはリビング横の和室に向かい合って座る。 パラパラと、真剣に譜面を一通り見てから高雄が調弦を始めた。 「あたしが一琴、か…」 『風の乱舞』は一琴と二琴で編成されていて、一琴はメロディーで二琴は伴奏のような役割。 …なのが普通なんだけど、この曲の難しい所は、途中でその役割が入れ代わること。 私は稽古の課題曲として、何度か住み込みさんと一緒に演奏したことがあるんだけど…。 「高雄、この曲弾いたことある?」 「…いや。まぁ、何度か聴いてはいるけど」 さらっと言い放って、高雄が軽く弾きはじめる。 …すごい。 いくら高雄が師範でも、初めての曲を、こうも簡単に弾き熟せるものなのかな。 「……。」 しばらく、聴き入ってしまう。 高雄の演奏は、おじいちゃんのそれとは正反対で、力強くて男らしい感じがする。 長い指が綺麗に動いて、弦を追う伏せた目が、…すごく色っぽい。 …男の人に色っぽいなんておかしいかも知れないけど、それが一番ぴったりな表現だと思う。 「…」 「…お嬢」 「あっ、…なに?」 「…見すぎ」 「…あ…」 手を止めて、苦笑する高雄。 「見てないで、一度合わせようか。 とりあえず、最初から」 「は、はい…」 見つめていたことがバレた恥ずかしさと、急に師範の顔になった高雄に焦って爪をつける。 ふー、と一度深呼吸をすると、周りがシンと静まった気がした。 私は令嬢で、高雄は後見人。 だけど、琴の世界になれば、師範の高雄は私よりもずっと上の人。 練習を見てもらうのは、私の方だ。 「よろしくお願いします」 深く頭を下げる。 高雄は薄く笑みを作り、軽く頷いた。 二人で音を奏でて、曲の中に入り込むと、外の空間から切り離されたような錯覚を覚える。 こうやって音色に身をしずめると、高雄が先生になったことや、新人の住み込みさんが洋介さんだったこと。 奇想天外な私の一日が、遠くに思えて。 ただただ、高雄の音を見失わないように、私は琴の演奏に没頭していた。 .
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