お似合い

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「…女子高生のあたしに、キスするのに?」 「……」 仕返し半分、興味半分。 どんな答えが返ってくるのか、表面は涼しい顔して見せるけど、内心はドキドキだ。 「お嬢がそう言うなら、しないよ」 合わされていた額から、高雄が遠ざかる。 どことなく苛立ちを含んだ声に、あたしは慌てて高雄の腕を掴んだ。 「…ち、違っ…」 「わかってる。 勘違いされると困るから、しないように気をつける」 見ると、高雄の瞳は、意地悪く細められていた。 「学校ではね」 「!!」 …やられたっ…! からかわれたのだと確信して睨むも、遅かった。 あたしの赤い顔を見ながら、高雄はニヤニヤと笑っている。 「…最低。ロリコンっ!」 「不特定多数にしなければ、それは当て嵌まらない」 しれっと言って退ける高雄は、綺麗な手つきで紅茶を自分のマグに注ぐ。 …そういう言い方は、ズルイ。 あたしだけが『特別』なんだと、期待してしまう。 そんなこと、有り得ないのに。 「俺がお嬢にキスする理由、知りたい?」 向かい合わせに座って、ふわりとアッサムの香りを漂わせながら、高雄が頬杖をつく。 「変な虫が、つかないようにでしょ」 「それもある」 「…他にもあるの?」 目をぱちくりさせるあたしを見て、高雄は優しく微笑む。 「…お嬢がもう少し、大人になったら教えてやる」 「……」 「宿題、がんばれよ。 女子高生」 あたしの頭をポンポン、と叩いて、高雄は仕事部屋へと消えて行った。 パタン、とドアが閉まる音を合図に、視界が滲んで、数学のプリントが歪む。 …結局、高雄にとってあたしは子供で。 大人の言い回しに過敏に反応をして見せるあたしを、楽しんでるだけだ。 …キスする理由なんて、わかんないよ。 彼女がいるのに、…他の女にキスする、理由なんて。 鼻を啜って、温くなった紅茶に口をつける。 さっきまでの華やかな香りは消えて、渋い苦みが、嫌に後味を悪くしていた。 .
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