お似合い

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ほとんど人通りのない廊下を、選択授業の教室へと歩いていく。 窓からは少し傾き始めた日差しが差し込んでいて、外からは楽しげな生徒たちの笑い声。 お嬢様学校であるこの学園では、最後の授業の前に20分間のお茶の時間たるものが存在する。 財閥や政治家のお嬢様たちは当然のごとくカフェテリアや庭でお茶会を開いているけれど、さして興味のない私は、さっさと次の教室に移動してしまうのが普通だった。 …逆に、この閑散とした静けさが好きなんだよね。 いつもなら、この空間を独り占めしてる気持ちになってウキウキしてるはずなのに…。 はーーっ、と、ため息をつく。 …恵那が、変なこと言うから…。 私の頭の中は、今朝の会話の内容が占領していた。 『凛々の好きな食べ物とか、趣味とかをそれとなく聞いてきたり。 …特に、家守との関係が一番気になってたみたいだよ』 「……」 力なく、足を止めて考える。 本当に、洋介さんは私に興味があるんだろうか。 …だとしたら、なんで? あの日、初めて会ったのに……。 ……。 『恋の可能性よ』 …わっ! ぼんっ!と恵那の言葉が思い浮かび、慌ててそれを消そうとする。 ない。 ないないないっ。 余計に意識してしまいそうで、頭の上の煙りを払うようにパタパタと手でその考えを追い払う。 …よし。 消えたっ。 俯きがちに悶々としていた姿勢から勢いよく顔を上げ、大股で一歩踏み出した時だった。 「あ…」
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