3614人が本棚に入れています
本棚に追加
「凛々ー?どしたー?」
誰もいない教室に一番乗りして、机に突っ伏していた私の頭上から声をかけられ、顔を上げる。
「…美鈴」
「ん?なんか元気ない?
あ、お腹空いてたりする?」
私の隣の席を陣取りながら、首を傾げて笑顔でクッキーを差し出す美鈴。
なんだか緊張感のない雰囲気に、ふっと笑ってしまい、それを一粒つまんだ。
体を起こし、ポイっと紅茶のクッキーを口に放り込む私を見てから、美鈴も笑って食べはじめる。
「なんかあったの?
悩み事?」
「なんかあったというか…」
高雄と峰岸先生がいい雰囲気だったから。
……なんて言えるわけない。
「……」
答えに詰まる私に、美鈴はにっこりと笑うと、それ以上は突っ込まずにパクパクとクッキーを頬張り出した。
美鈴は、昔からこうだ。
空気を読むのが上手いというか、人との距離感を一定に維持する。
小等部から一緒だった、いわゆる幼なじみの私が相手でも例外ではなくて、昔はそんな美鈴を『大人びた子だなぁ』なんて思ってた。
「美鈴はさ…」
隣の机に広げられたクッキーをもう一粒拝借しながら、
「……好きな人、いる?」
と、美鈴を見ないまま投げかけてみた。
「……。
そうだなぁ…」
一瞬、美鈴の手がピタリと止まった気がしたけれど、思った通り、突拍子もない質問をした私には何も聞かずに、柔らかい声で呟いた。
「…私、…叶わない恋は、しない主義だから」
.
最初のコメントを投稿しよう!