お似合い

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「え…」 意外な美鈴の返事に思わず声を零す。 てっきり、何気にかわされると思ってたのに。 ううん、それ以上に。 美鈴の言った言葉が、なぜだかひどく悲しげに聞こえた。 美鈴は、そんな私に変わらない笑顔のまま事もなげに続ける。 「というか、私、跡取りでしょ? 兄がいるけど、うちは代々長女が後継ぎになるから。 …先が見えちゃってるんだよね。 家に入るのが抵抗のない、世間的になんの弊害のない人といずれ結婚するって。 きっとお見合いだよ。 別に自分を憐れんでるわけじゃないよ? きっとその方が、私にとっても都合がいいって分かってるから。 私たちの業界って、色々大変でしょ。 一般の人がその世界にぽんっと入って、すぐに何とかなるもんじゃないと思うの。 ……好きな人には、そんな目に見えてる苦労はしてほしくないし、何より、家に縛られて欲しくない。 だから、感情に任せた無謀な恋愛をする気はないんだ」 「……」 淡々と、というか、あっけらかんと言ってのける美鈴。 恵那が妄想癖があるなら、美鈴は正反対の現実主義だ。 幼い頃からみんなに褒められ、常に模範生として見られてきた彼女の頭には、今だけじゃなく、ずっとずっと先の人生設計が描かれているんだろう。 高雄に対する想いが断ち切れない私に、そんな美鈴が強くも寂しく感じられるのは、私が子供だから……? 「…けど…」 それまでの彼女の柔らかな雰囲気が、少し目を伏せたことで表情を変える。 「私だって、憧れがないわけじゃないよ。 少女漫画とか恋愛小説みたいに、 家柄とか、年齢とか、…禁断の愛だとか…、そんなの関係ないってほど。 …自分の恋に、身を沈めてみたいなって、…思うこともある…」 「美鈴…」 美鈴の瞳に、『女』の色が、揺らめいた気がした。 初めて見せたその色に、美鈴は、もしかしたら、 私なんかが計り知れないほど、つらく、…許されない恋をしているのかもしれない。 …そんな気がした。 .
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