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淡々と感じたことを素直に口にすると、さっきまで呆れ顔だった高雄がふっ、と、表情を緩めた気がした。
「…ご名答。
さすが、お嬢の耳には頭が下がる」
「生まれた時から琴と三味線の音色を聴いて育ったんだもん。
伊達じゃないわよ」
高雄の優しい笑顔と、褒められたことが嬉しくて、ふふん、と調子に乗ってみる。
幼い頃から毎日欠かすことなく聴いてきたから、耳には自信があるのは確か。
演奏者はそれぞれ固有のリズム感や間の取り方があるから、一度聴けば、見なくても誰が弾いているのか分かる。
もはや、私の特技と言っていいかも。
「先週から新しく来たんだよ。
なんでも、音大のピアノ科を卒業してから家元に弟子入りした変わり者らしい。
今日が所見だって」
「ああ、だから調弦が上手くないんだ。遅れた理由もそれかぁ」
それにしても、ピアノ…。
…どうりで、あの跳ねるような弾き方。
「高雄、まだ会ってないの?新人さん」
「あー…時間なくて。
初夏の茶会も近いから、忙しくてね」
「そっか…ごめんね。
…さっきも仕事、途中だったんでしょ?」
ははっ、と軽く笑って、高雄は私の頭をポンポン、と叩くように撫でる。
切れ長の目尻を、くしゃ、と崩して。
「仕事なんかより、俺のお嬢が遅刻しない方が、よっぽど大事だから」
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