お似合い

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「どうしたの?たか…」 疑いもなく開口一番に高雄の名前を呼ぼうとした私の口が、停止する。 「こんばんわ」 そこには、にこやかに笑う洋介さんの姿。 「……こ、んばんわ?」 驚きのあまり疑問形で挨拶返し。 …洋介さんが、どうして『離れ』に来るんだろう。 意外な訪問者に目をぱちくりとさせる私に、洋介さんは手にしていた小さな箱を掲げて見せた。 その見覚えのあるロゴの入った白い箱に、私の目はキラキラと輝く。 「っ! ピ、ピエール~~っっ!」 そこにあったのは、紛れもなく私の大好きなケーキ屋さんの『メゾン・ピエール』の文字。 「夕飯、終わってる? 良ければ、デザートにどうぞ」 「え!いいの!? ありがとう~っ洋介さん!」 飛び跳ねたい気持ちをぐっと抑え、そっと箱を受け取る。 …と。 あれ? 「…これを渡すために、わざわざ?」 尋ねる私を、洋介さんは外開きに開いた玄関ドアを体で押さえるように寄り掛かりながら見下ろしている。 高雄ほどではないけれど、長身の洋介さんの微笑む表情は、淡い月の光を後ろに受けて、なんというか、…艶っぽくてドキドキした。 …ん? ドキドキ? 「今週末、凛々ちゃんが代理を務めるパーティーがあるでしょ? 加賀さんも一緒に演奏することになったから、俺もヘルプでついて行くよう言われたんだ。 いい勉強になるだろうって。家本が」 「そうなんだ?」 「それで、加賀さんにスケジュールなんかを聞いておこうと思ってね」 なるほど。 要するに、高雄に用事があって訪ねてきたんだ。 「あ、でも。 今、ちょうど高雄いなくって…」 「知ってる」 .
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