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間髪入れずに返事をする洋介さんに、首を傾げる。
その表情は、柔らかく微笑んだままだった。
「は?」
「だから、知ってる。
今さっき、前の通りに車で出て行くとこ見てたから」
洋介さんの影が、ゆらりと揺れる。
「だから来たんだ」
その言葉と強い視線に、嫌でも心拍数が上がっていく。
…そ、それって…。
『恋の可能性よ』
――うああっ!
恵那の言葉がリフレインして、顔が赤くなるのが分かる。
…まさか。
まさか、ね…。
そんな突然、漫画みたいな展開……。
一人百面相をする私に、洋介さんはくすくすと笑って、
「それ、ケーキ。
凛々ちゃんがオススメしてくれたイチゴショートと、新作のも入ってるんだ。
一緒に、食べようと思って」
と、白い箱を指差した。
綺麗な長い指。
…ピアノに、向いている手だ。
まるで思考を遮るように、ぼんやりとそんなことを思っていると、洋介さんは一歩外から玄関の中へと足を踏み入れた。
「とりあえず、入れてくれる?
凛々ちゃん」
相変わらずの歌うような独特な口調の後ろで、パタン…、と静かに扉が閉まる。
『近いうちに、洋介さんは凛々に近づいてくるわよ。
そしたら凛々も、…その可能性を否定出来なくなる』
有り得ない予言が、現実になった気がした。
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