パーティーに潜む嵐の予感

2/19
前へ
/244ページ
次へ
…お、おいしいっ…! 目の前に差し出された、綺麗なピンク色でピラミッド型にされたクランベリーのムースを、もう一口ぱくりと口に含む。 愛してやまないピエールの新作ケーキを食べて、ふにゃりと顔が緩んでいく私の様子に、向かいに座った洋介さんはブラックコーヒーを啜りながら微笑んでいた。 「…わ。洋介さん、もう食べたの?」 「言ったろ? 甘いものには目がないんだ」 そう言って、箱からシュークリームを取り出し、豪快にかぶりついた。 「それにしても、ハズレがないね。この店のケーキ。 凛々ちゃんが教えてくれてラッキーだった」 「でしょ? 小さな昔ながらのケーキ屋さんだから、意外と穴場なの。 マドレーヌとかクッキーとか、焼き菓子も美味しいんだよ」 「お、そうなんだ。 そういや、マカロンとか種類が豊富だったもんな」 「あ、マカロンはまだ食べたことないんだ。 今度、買いに行かなきゃだね」 「それ、俺も参加したい」 …なんて、違う意味で甘ったるい会話で盛り上がるのも、かれこれ1時間以上。 …あのドキドキは、何だったの? そう思うほど、まるで恵那と話すみたいに私は洋介さんに気を許していた。 最初こそ緊張していたものの、いざケーキの試食会が始まると、やれあの店のケーキが美味しいやら、駅前に新しいアイスクリーム屋さんが出来たやら、そんなスイーツな話題で盛り上がってしまったのだ。 それ関係の洋介さんの引き出しは、それはそれは多くて。 いかに普段から甘党なのかがよく分かる。 意外と饒舌だった洋介さんのペースに巻き込まれ、『恋の可能性』なんて微塵も考える暇がないほどだった。
/244ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3614人が本棚に入れています
本棚に追加