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驚いて振り返ると、ネクタイを緩めながらリビングに入って来た高雄の姿。
裏の勝手口から帰ってきたから、気づかなかった…。
「こんばんわ。
お邪魔してます」
「……。
わざわざ『離れ』に来てまで、なにしてんの。辰巳」
「今週末のパーティーのことで、加賀さんに色々聞いておこうと思いまして。
それから、お嬢さんが好きなケーキを差し入れに」
すっと立ち上がり、にこにこと屈託のない笑顔で、高雄のオーラには物おじせず答える洋介さん。
私のことを『お嬢さん』と呼んだのは、この前の高雄の忠告を気にしてだろう。
確かに洋介さん以外の住み込みさんは、私をそう呼んでるし。
高雄はため息をつきながら、鞄を乱暴にソファーに落とすと、ゆっくりと私たちの方へ歩み寄る。
「…パーティーに辰巳も同伴することは、家本から聞いてる。
当日は、主に荷物持ちと、あとは場慣れしてもらうだけで、特にこれと言ってしなきゃいけないことはない。
財界や政治家のゲストも来られるから、失礼のないようにだけ努めて」
「はい」
「服装はスーツで。
家を出る時間なんかは、前日までに伝えるから」
「わかりました」
座ったままの私の頭上で、淡々と業務事項を話す高雄。
…どうして、こんなに機嫌が悪いんだろうか…。
長い付き合いだから、わかる。
淡々と話すなかにも、高雄の不機嫌さが混ざっているのが。
対する洋介さんは、気付いていないのか、相変わらず穏やかなまま。
というか、余裕すら感じるのは何でだろう。
「お嬢」
「はっはいっ」
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