パーティーに潜む嵐の予感

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知らない大人の世界に、ようやく見知った顔に出会えて、私は思わず笑みを零した。 「九条さん! ご無沙汰してます」 シャンパンを片手に、目尻の皺を深くして微笑む彼との距離を一歩詰め寄る。 年はおそらく、60代前半だろう。 だけど、背が高くてスマートな立ち姿が、とても『中年』とは言えないダンディな九条さんは、かなり有名な政治家だ。 確か、御祖父様が内閣総理大臣、お父様が官房長官を務めていたという、いわゆる政界のサラブレッド。 そんな九条さんは、初めて私がこのパーティーに出席したときから、よく気にしてくれていた。 『凛々さんの演奏の、ファンなんだよ』 と、茶目っ気たっぷりに声を掛けて来てくれて以来、私は九条さんの優しい雰囲気に、すっかり懐いてしまっていた。 今回も例外ではなく、私を見つけるやいなや声を掛けてくれたんだと思うと、嬉しくて仕方ない。 「今日の振袖、凛々さんによく似合っているね。 少し見ないうちに、また大人びたんじゃないか?」 「えへへ。 お世辞でも嬉しいです」 「そんなことない。 凛々さんの演奏と振袖姿がこのパーティーに来る楽しみになっているからね。 …今日は、加賀くんも一緒に演奏するのかい?」 九条さんの視線が、私の後ろにいた高雄に移った。 「…はい」 そう短く返事をした高雄は、…作りもののような笑顔を九条さんに向けていた。 「…たか」 「飲み物を取ってくるよ。 …少し失礼します、九条さん」 「ああ」 私が高雄を呼び掛けるのを遮り、高雄は九条さんに一礼をしてその場を去っていく。 …もう。 ……なんか、失礼じゃない? 高雄らしくない振る舞いに私が眉を潜めていると、九条さんは困ったように目尻を下げて笑った。 「彼は、私が嫌いなようだね」 「そ、そんなことないです! …あの、すみません…。 うちの加賀が、失礼な態度を…」 「いや、いいよ。 彼も、家守である前に、凛々さんの後見人だ。 …私のようなオジサンでも、君に言い寄ってくる男に牽制するのは当然だろう」 「……九条さんには、オジサンなんて言葉、似合いませんよ」 「嬉しいことを言ってくれるね」 人当たりのいい笑顔で、九条さんはにっこりと笑った。 .
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