パーティーに潜む嵐の予感

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程なくして、高雄はオレンジジュースを手に戻って来た。 その後ろには、車を止めに行っていた洋介さんの姿も。 「…九条さん。 紹介します」 口元は笑っているけれど、相変わらず感情のない、淡々とした口調の高雄。 「彼が、うちに新しく来た住み込みです。 まだまだ不慣れですが、こういった場にも時々は顔を出すことになると思うので」 視線で高雄に促され、スーツを着こなした洋介さんが、九条さんの前に一歩足を進める。 「辰巳といいます。 まだまだ至りませんが、お見知りおきを」 九条さんのオーラにも動じず、相変わらず穏やかな雰囲気を崩さない洋介さん。 …洋介さんて、大物かも…。 高雄からオレンジジュースを受け取りながら、有名政治家に対してのその堂々たる態度に感心してしまう。 「ほう、これはこれは。 男の子とは珍しい。 …住み込みに入るなんて、よっぽど琴に縁があったのかな?」 九条さんは、シャンパンのグラスを傾けながら、楽しそうに目を細めている。 「…いえ。 自分は元々ピアノをやっていまして。 大学のサークルで琴の魅力に取り付かれて、今になってようやく本格的に足を踏み入れたところです。お恥ずかしいですが…」 「……ピアノ?」 九条さんが、ピタリと表情を固めた。 すぐ隣で、ワインを手にしながら談笑する大人たちの、高らかな笑い声が響く。 「…辰巳くんと言ったね? …もしかして、辰巳清四郎氏と、なにか関係があるのかな」 「……」 首を傾げて、何かを思い出すように尋ねる九条さん。 穏やかな洋介さんの瞳が、…一瞬、濁ったように見えた。 .
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