パーティーに潜む嵐の予感

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私は何の話しか分からず、高雄を見上げた。 すると高雄も、眉を上げて目配せをして見せる。 …高雄も、何のことか分からないんだ…。 目の前に対峙する、初対面のはずの二人。 当人たちにしか分からない話題に、私はただ黙って成り行きを見守るしかなかった。 やがて洋介さんは、柔らかく微笑んだまま、…諦めのような小さな息を吐いた。 「…ええ、父です。 ……ですが、…今の僕には、関係のないことなので…」 「……。 …そうか」 九条さんは、無表情のままシャンパンをくいっと煽ると、次の瞬間にはいつものように目尻に皺を寄せていた。 「…失礼したね。 …父親が誰であっても、君は君だ。 思った通りに進むのを、誰も咎めたりはしない。 …この世界で、君がどう成長していくのか、楽しみにしているよ」 九条さんの瞳は、とても優しく、慈愛のようなものを感じた。 洋介さんが安堵したように眉を下げて笑うと、九条さんは軽く肩を叩き、私に「演奏、楽しみにしているよ」と告げ、人の波に埋まって行った。 その後ろ姿に、慌ててペコリと頭を下げた。 そして、ちら、と、隣にいた洋介さんを覗き見る。 「…なに?」 いつもと同じ、穏やかで、弾むような口調。 そして、濁りのない優しい瞳。 「…なんでもないよ」 私も、笑顔を返す。 九条さんとの今のやり取りを、…聞くのは、やめておこう。 どうして、洋介さんのお父さんのことを、九条さんが知ってるのか。 どうして、お父さんの話しをするときの洋介さんの瞳には、…影がちらつくのか。 『関係ない』とは、どういう意味なのか。 「そろそろ、準備しよっか」 それらの疑問を全部、胸の奥に飲み込んだ。 .
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