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「お疲れ、お嬢」
「お疲れさまでした、お嬢さん」
琴の演奏を無事に終わらせ、ステージから降りた私に、高雄と洋介さんが優しく労ってくれる。
いつものことながら、ふっと肩の荷が下り、私はやっと心から笑えた気がした。
「ありがとう。
高雄が、一緒に弾いてくれたかいがあったね。
…お客様たちの反応が、すごくよかった」
私の言葉に、高雄はにっこりと微笑んだ。
ステージの方からは、まだ拍手の名残が続いていて、聞き手がどれだけ満足してくれたのかが、良く分かる。
「そろそろ、帰ろうか。
疲れたんじゃない?」
「…うん、少し…」
「まだまだ、お嬢には慣れない場所だからね。
もうだいたいの人には挨拶も終えたから、片付け次第、車を回そう。
…辰巳に、伝えてくるよ」
そう言って、高雄はステージの袖で琴を仕舞っている洋介さんの方へと歩いて行った。
…はあ。
今回も、乗り切った。
回数を重ねるごとに、徐々にこの空気には慣れていっているものの、…高雄の言う通り、私にはまだまだ違う世界な訳で。
終わったあとの疲労感は、毎回すごいものがある。
…喉、渇いたな。
私は辺りを見回し、バーカウンターの方へと歩きだした。
…飲み物もらって、帰る前に、九条さんに挨拶だけしとかなきゃ…。
「…あれ?」
バーカウンターにたどり着いたものの、そこは無人で。
キョロキョロしていても、周りに飲み物を配り歩くボーイさんたちの手には、シャンパンやワインしかない。
…いつも、高雄が飲み物を用意してくれるから…。
ノンアルコールしか無理なお子様の私が困り果てていると、
「どうぞ。
ウーロン茶でいいのかな?」
優しい声色とともに、横からグラスが差し出された。
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