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「ねー、聞いた?
加賀先生のことっ!」
「あー、知ってる!
がっかりだよねぇ」
「あんなに素敵な人だもの。
…仕方ないといえば、仕方ないよね」
「けど…まさか婚約者がいらっしゃったなんて」
水曜日。
学校ではそこら中からため息が聞こえていた。
原因は、昨日の高雄の爆弾発言だ。
いつものように女生徒の黄色い声と誘いに囲まれていた高雄が、何の前触れもなく、にっこりと笑顔のまま、言った。
『婚約者の機嫌を損ねたくないので、お嬢様方のお誘いはお受け出来ません』
たまたま、私がその人垣を不機嫌に通りすぎようとしたときの出来事だった。
私を始め、その場にいた全員が固まり、空気が静まり返った。
一瞬だけ、高雄と視線が合って、
…私に聞かせるために言ったんだと気づいた。
『私以外の女の子に、あんまりいい顔しないで』
…あんな子供みたいな独占欲に付き合って、高雄は婚約者がいるという嘘を、飄々と言ってのけたのだ。
本気で高雄に言い寄って来ていたお嬢様方がショックを受けたのは、…言うまでもない。
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