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「加賀先生、婚約者がいたんだってねー」
「……みたいだね」
多分、すべて分かっているであろう恵那がニヤニヤと私をからかう。
「どうせ他の子にキャーキャー言われてるのが癪で、あんたが加賀先生に何か言ったんでしょ」
「……」
ほら、ご名答。
分かってるなら言わないでほしい…。
「凛々はブラコンだねー」
「……。
高雄は、お兄ちゃんじゃないもん…」
「でもお互いにそんな感じでしょ?
凛々が小さい頃から、ずっと一緒に暮らしてるんだから」
「……そう、なのかな」
私は、違うんだけどな。
……高雄は、そうなのかもしれない。
『ブラコンの妹と、その妹が可愛くて仕方ない兄貴』
私たちの関係は、恵那にはそう映っているみたいだ。
恵那にからかわれながら、今日から始まる経営学の授業に向かう。
教室に入ると、日本文学の授業よりも選択している人数が多くて、私と恵那は空いていた窓際の後ろの席に並んで座った。
授業が始まるまで、あと5分ほど。
窓の外に目をやると、雲一つない、晴天。
初夏の清々しい風が、ふわりと髪を揺らした。
「…ん?」
ふと、目線を空から下に向ける。
そこは、ちょうど中庭が見えていて、
…意外な人が、まるで、隠れるように壁際に立っている。
その光景に、私は思わず目を見張った。
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