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…あれ?
3階のここからじゃよく見えないけど、…制服を着た女の子が、必死に誰かに話しているようだった。
セミロングの柔らかそうなくせっ毛の髪に、目の上ぎりぎりに揃えられた前髪。
白い肌と大きな瞳。
…まるでお人形のように可愛らしいその風貌は、遠目にでも分かった。
……美鈴?
机に座ったまま、少しだけ窓に体を寄せる。
すると、美鈴の向かいに、茶色の頭がちらりと動く。
壁に寄り掛かるようにして、美鈴と向き合って話している人物は、顔は見えないものの、…男の人だと、直感的に感じた。
…誰と、話してるんだろう。
声までは聞こえないものの、楽しく談笑している様子ではない。
…むしろ、切羽詰まったような。
「…あ」
やがて、美鈴は顔を隠すようにして、その人を置いて昇降口へ走って行ってしまった。
……泣いてる?
「凛々。
どうかした?」
隣からの恵那の呼びかけに、ハッとする。
「…ん、なんでもない。
いい天気だなって思って」
それを聞いた恵那が、「平和だねー」と笑った。
私も笑顔を返してから、もう一度、窓の外に視線を向ける。
そこには、もうすでに誰もいなかった。
中庭の生け垣の真ん中で、小さな噴水がキラキラと光っていた。
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