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「こ、向上…先生」
「いいなーその呼び方。
新鮮で」
にこにこと屈託のない笑顔で、一歩一歩ゆっくりとこちらに向かってくる向上先生。
変な緊張が、体に走る。
「やだな。
まだ警戒心丸出し。
俺、怪しいナンパ男じゃないって分かったでしょ」
「…まさか、経営学の講師があなただとは思いませんでした」
「俺もまさか、君が俺の授業を取ってるなんて思わなかった。
…わざわざ探す手間が省けたよ」
「……」
軽い口調なのになんだか怖いのは、私の先入観のせいだろうか。
気付けば向上先生は、私が座るベンチのすぐ後ろまで来ていて、上半身を後ろに捻らせながら話していた私は慌てて前に向き直った。
背もたれに、ギ……と体重がかかった気配がした。
私を挟むように、向上先生が両手をついたからだ。
「……めちゃくちゃ、会いたかった」
「…っ」
そのまま後ろから私の耳に口を近づけて、囁かれる。
そんな言葉、からかわれてるだけと分かっていても、慣れていない私の体はかぁっと熱を上げた。
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