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「えーと、ですね。ここの家の奥さん。伊原雪江さんがですね、家政婦の山岸和子さんに、被害者の市蔵さんを呼んでくるように頼んだんですよ」
瀬崎は眉間に皺を寄せ、固く目を閉じ、唇を真一文字に結び、じっと聞き入る。
「それから?」
「それからですね、和子さんが書斎に被害者を呼びにいったんですけども、部屋には鍵が掛かっていて中から返事がない」
瀬崎は園山の言葉を反芻する。死体消失という事実に混乱した頭をほぐすように。
何か、何か不自然な点があるはずだ。
集中しろ……。そう自分に言い聞かす。
「そこに、浩之さんと市蔵さんがやって来て扉をぶち破り、中に入ってみたところ、部屋はもぬけの殻だったと」
瀬崎は戦慄した。
本当に密室状態の部屋から死体が消えたというのか。
園山からの情報は筋が通っていて不自然な点は見受けられない。
一体、この館で何が起きている?
どこかで扉の開く音がした。
音のした方を見ると、先程まで誰もいなかった広い階段の上に、ひとりの人物が立っている。
背は低く、横幅のある体格。立派な口髭と髪の薄くなった頭部。狸のような顔立ちだ。
その人物は瀬崎の姿を発見すると、大きな腹を揺らしながら一気にこちらへ駆け寄ってきた。
そして目にはうっすらと涙を溜めながら、瀬崎のコートにすがりついてきた。
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