密室

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トン、トン、トン…… ノックの音が鳴り響く。 「……旦那様」 和子は主を呼んでみたが、“やはり”返事がない。 トントントン、トントントン…… もう一度扉を叩いてみる。 「奥様がお呼びです、旦那様」 再び中に声をかけてみるが、“案の定”返事は返って来ない。 「どうしたんだい?和子さん」 声の主は市蔵の息子、浩之だった。 「あら、浩之坊ちゃま。いえ、奥様に旦那様を呼んでくるように申しつけられまして」 「いい加減、坊ちゃまはよしてくれよ」 浩之は恥ずかしそうに手を払う仕草をする。 小さい頃から浩之の面倒を見てきた和子は、浩之をまだまだ子供のような感覚で接してしまう。 しかし浩之は既に三十を越えていた。 「で、親父いないのかい?」 「ええ、返事がないようです」 和子はそう答えた。
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