4人が本棚に入れています
本棚に追加
トン、トン、トン……
ノックの音が鳴り響く。
「……旦那様」
和子は主を呼んでみたが、“やはり”返事がない。
トントントン、トントントン……
もう一度扉を叩いてみる。
「奥様がお呼びです、旦那様」
再び中に声をかけてみるが、“案の定”返事は返って来ない。
「どうしたんだい?和子さん」
声の主は市蔵の息子、浩之だった。
「あら、浩之坊ちゃま。いえ、奥様に旦那様を呼んでくるように申しつけられまして」
「いい加減、坊ちゃまはよしてくれよ」
浩之は恥ずかしそうに手を払う仕草をする。
小さい頃から浩之の面倒を見てきた和子は、浩之をまだまだ子供のような感覚で接してしまう。
しかし浩之は既に三十を越えていた。
「で、親父いないのかい?」
「ええ、返事がないようです」
和子はそう答えた。
最初のコメントを投稿しよう!