704人が本棚に入れています
本棚に追加
和泉さんは少し困ったようにこちらを見た。
「和也、落ち着いて聞けよ」
仕事を初めて俺の世界観は大きく変わった。驚きの連続。
だから、和泉さんは俺が知らないであろう事を伝える時には、だいだいこのセリフで前置きする。俺もここ数カ月でいろいろ免疫が出来て、ちょっとやそっとのことでは驚かなくなった。
「今度はなんですか?」
「正也に、さいきん会ったか?」
え、正也?仕事の話だと思っていたのに、いきなり弟の名前を出された。
正也は俺の3つ下の弟。うちは親が離婚して、俺は父親に、弟の正也は母親に引き取られた。和泉さんが、わざわざ訪ねてきて、正也の話。嫌な予感。
「正也に何かあったんですか?」
「消えた。詳しいことはまだ解らない。」
消えたって・・・どういうことだ。
「どうゆうことですか!」
怒鳴ってしまった。学食にはそんなに人はいなかったが、ざわついたのが解る。
「ちょっと落ち着け。いま騒いでも始まらん。すでに笹島達が動いている。」
「三日前から学校を休んでいる。連絡も取れない。自宅にもいない。 お前最後にあったのはいつだ。」
「正月です。」
二人で食事をした。親が離婚してからも、正也のことが心配で、ときどき会いにいっている。
「何か変わった様子はなかったか?」
一月ほど前になるが、よく覚えている。外で食事をして、店を出る時に横に立った正也の背が伸びたなっと思ったのを覚えている。けれど他に変わった様子は無かった。
そのまま正也のアパートへ行くと、母親がいた。俺は、母親と会うのは数年ぶりで、一応携帯で連絡は取っているが、驚いた。別れた時と少しも変わっていなかった。母親は俺に会えたことを本当に喜んでくれていたようだった。母親に気を取られていて、何か見落としたのか。
「いえ、特には。」
「そうか、学校から皐月さんに連絡があったそうだ。」
皐月さんというのは、俺と正也の母親だ。俺の両親は同じ会社に所属している。だから和泉さんは母親とも面識がある。両親は今二人とも海外だ。だから、和泉さんが俺のところに来た訳だ。いや、国内にいてもそうだったかも。
最初のコメントを投稿しよう!