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気が付くと、正也は寝息を立てている。やっぱ眠れなかったのか。なんつう無邪気なやつ。そっと髪に触れても起きる様子はない。
正也。
指で唇に触れる。
「んー」
正也はうっとうしそうに顔をしかめて、横を向く。
だめだ。押さえがきかなくなりそうだ。俺は立ちあがって、部屋を出て後ろ手にドアを閉める。
「おっ」
近くで声がする。見るとあのボディガードが立っている。やっぱ警備してんのか。
「あ、おはようございます。」
とりあえず、挨拶をしてみる。
「おはよう。どうした?大丈夫か?」
「え、いや、なんでも。」
「喧嘩でもしたのか?」
「いえ。」
どうしよう。
「あのちょっと、腹が痛くて。」
「中にトイレあるだろ?」
「なんか、落ち着かなくて。」
「ああ、しょうがねぇなあ。こっちこい。歩けるか?」
「はい、すみません。」
少し歩いたところに共同のトイレがある。
「ほら、いってこい。俺待っててやるから。」
待ってなくていいけど。
俺は別に腹が痛いわけではないが、せっかく来たので個室に入って用を足す。
あいつが中年親父とねえ、ちょっと想像してみる、いやいや、やめとこう。でも思ったよりずっと人当たりがいい。この前店の外にいるのを見かけた時は近寄りがたい感じに見えたけど。長身で外人モデルみたいたなきりっとした男前。長髪がよく似合ってる。
トイレから出ると、ちゃんと待っていてくれたようだ。
「手洗ったか。」
「はい。」
「よし。」
俺と並んで歩く。
「正也と仲がいいんだってな。」
「はい、まあ。」
「俺は秋ってんだ。よろしくな。」
「あ、はい。村山です」
「うん、海だろ。」
「はい。」
「いろいろ迷惑掛けて悪いな。」
「いえ、そんな。」
「俺のことは、秋って呼べよ。秋さんっとか言うなよ。」
「はあ。」
「俺も海って呼ぶから。」
なんだろう、これ。友達成立?
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