はじまり (正也)※R-18

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 今日も寒い。マフラーを巻いて手袋をはめて自転車にまたがる。今朝も母はいない。親が離婚して、母と二人だが、母親とはほとんど顔を合わさない。 「いってきまーす」  誰もいないが、家を出るときには言ってしまう。  いつもと同じ道を通学。途中には人気のない裏通りを通る。いったい何に使われているのかわからないが、古いコンクリートの建物が並ぶ通りで人を見かけたことはない。  いつも通りに何事もなく学校を終えて俺はいつもまっすぐ家に帰る。帰ってからは洗濯やら買い物やらすることがあるのだ。  帰りも朝と同じ道を通る。寒くて、つい自転車のスピードが上がる。  裏通りは人が飛び出してくることもないので、油断していた。角を曲がった瞬間。  人がいた。  幸いぶつからずに、ぎりぎりを脇をすり抜ける。勢いに任せてそのまま通り過ぎてしまった。向こうも驚いてたようだったけど。  この裏通りは、人通りはないがよく怖そうなスモークを張った高級車が停まってて、そういう関係の建物かもしれないと思っていたので、怖くなる。    そのまま全速力で走り去る。後ろから怒鳴られるようなことはなかった。通りから郊外へ抜けて一息つく。  家に付いて制服から普段着に着替える。洗濯機のスイッチを押して、冷蔵庫の中を確認、夕飯の買い物に出る。  俺は、主婦かなにかか・・・。  親が離婚してから、家事をするようになった。  親の離婚前も3つ上の兄が共働きの母を助けて家事をしているのを見ていたし、手伝う兄をさらに手伝ったりしていたので、そんなに苦にはならない。料理もやってみればなかなか面白い。  アパート近くのいきつけのスーパーマーケットで買い物する。 高校生の男子はちょっと場違いだが、そんなこと気にしてられない。うちにはうちの事情があるんだ。  寒いし今日は鍋にしよう。  ねぎ、白菜、豚肉、えのき、豆腐、食材をカゴに入れる。    家に帰って、洗濯機から洗濯物を出して部屋の中に干す。一人分の洗濯物なんて大した量じゃない。そこまで出来たら、休憩。リビングでテレビを見る。    夕方から鍋の準備をして、いつも通り一人でテレビを見ながら食べていると携帯が鳴る。  海から電話だ。
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