意外な相手 2(海)・3(悠馬)

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 夕方6時を過ぎ、電車は部活帰りの学生や仕事帰りの社会人で混み合っている。 友達同士でつるんでいる学生を見て、気が重くなる。  正也はどうしているだろう。どうしてあんなことしてしまったのだろう。  どうして?馬鹿馬鹿しい。  自分に呆れる。    わからない振りをする気か?正也のことが好きだからだ。自分のものにしたかった。自制がきかなかった。正也はきっと傷ついただろう。泣いていた。胸が締め付けられる。どうしようもない罪悪感。悪いのは自分だ。それを、どうして?なんて、現実逃避もいいところだ。自分はなんて卑怯なんだ。  謝罪のメールを送ったが返事はなかった。きっともう会わないほうがいい。わかっているのに。 会いたい。正也。  もしかして、あって話せば…淡い期待が胸を掠める。    ありえない。許すつもりなら連絡があるはずだ。だがもう一ヶ月になる。この一ヶ月この思考を毎日繰り返している。  乗り換えの駅に着き、電車を降りて向かいの反対側のフォームに立つ。冷たい風が頬を撫でる。日の光は幾分明るくなったが、まだ風が冷たい。      このまま会えないまま、このまま過ぎていくのだろうか。そしたら、俺は正也のことを忘れられるだろうか。諦められるのか。会えなくとも、この状況でも思いは変わらない。  無理だ。この思いを消すなんて。 「おい、村山」  いきなり名前を呼ばれて、ハッとした。声の方を見る。  誰だ???俺を呼んだであろう男子が俺のすぐ横に立っているが、見覚えがない。 「大丈夫か?」 「え?」 「なんか、考えごと?」 「あ、いや、えっと。」 「久しぶり。覚えてっか?俺のこと。」  いや、全然。とは言えない。 「あーっと」  突然のことで、全く頭が働かない。  誰だ、こいつ。 「うそ、まじでわかんねーの?ひでー、俺、けっこう有名人だったと思うんだけど。」 だった?ということは、中学の知り合いか。 「悪い。」  まったく思い浮かばないので、取りあえず謝る。
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