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夕方6時を過ぎ、電車は部活帰りの学生や仕事帰りの社会人で混み合っている。
友達同士でつるんでいる学生を見て、気が重くなる。
正也はどうしているだろう。どうしてあんなことしてしまったのだろう。
どうして?馬鹿馬鹿しい。
自分に呆れる。
わからない振りをする気か?正也のことが好きだからだ。自分のものにしたかった。自制がきかなかった。正也はきっと傷ついただろう。泣いていた。胸が締め付けられる。どうしようもない罪悪感。悪いのは自分だ。それを、どうして?なんて、現実逃避もいいところだ。自分はなんて卑怯なんだ。
謝罪のメールを送ったが返事はなかった。きっともう会わないほうがいい。わかっているのに。
会いたい。正也。
もしかして、あって話せば…淡い期待が胸を掠める。
ありえない。許すつもりなら連絡があるはずだ。だがもう一ヶ月になる。この一ヶ月この思考を毎日繰り返している。
乗り換えの駅に着き、電車を降りて向かいの反対側のフォームに立つ。冷たい風が頬を撫でる。日の光は幾分明るくなったが、まだ風が冷たい。
このまま会えないまま、このまま過ぎていくのだろうか。そしたら、俺は正也のことを忘れられるだろうか。諦められるのか。会えなくとも、この状況でも思いは変わらない。
無理だ。この思いを消すなんて。
「おい、村山」
いきなり名前を呼ばれて、ハッとした。声の方を見る。
誰だ???俺を呼んだであろう男子が俺のすぐ横に立っているが、見覚えがない。
「大丈夫か?」
「え?」
「なんか、考えごと?」
「あ、いや、えっと。」
「久しぶり。覚えてっか?俺のこと。」
いや、全然。とは言えない。
「あーっと」
突然のことで、全く頭が働かない。
誰だ、こいつ。
「うそ、まじでわかんねーの?ひでー、俺、けっこう有名人だったと思うんだけど。」
だった?ということは、中学の知り合いか。
「悪い。」
まったく思い浮かばないので、取りあえず謝る。
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