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正也のアパートに向かって辺りを調べながら歩く。
なんらかの痕跡がないか、意識を集中する。
近くに数匹鬼がいるのを感じるが、普通に存在するレベル。攻撃してくる様子もない。放置して問題ないだろう。そのまま正也の痕跡を探る。正也のアパートの入口が見える、入口の前に誰かいる。あれは、村山。
あいつ、なんで。帰るって言ってたのに。
入口の前で止まっているので、俺は曲がり角の陰に隠れて様子をうかがう。ここで顔を合わすのはまずい。なにやってんだ。携帯を出したり、しまったりしているようだが。やっぱり正也の失踪のことは知らないんだろうな。
不意に後ろから肩を掴まれて、口を塞がれた。驚いて叫びそうになったが、口を塞がれているので叫べない。後ろから抱きすくめられて、真横に犯人の顔。煙草の匂いがする。
「よぉ、悠馬。ガキがこんな時間まで遊んでちゃダメだぞー。それから、覗きも犯罪だ。」
犯人は低い声でそう言った。
笹島さんだった。そりゃ気づけないはずだ。
俺だって一応訓練をしているので、人の気配とかには敏感なんだが相手がこの人では無理。和泉さんと同じくらいの歳で、頼りになるおっさん。本人には死んでもおっさんとは言えないけど。
「お疲れ様です、仕事してんですよ。高校生がこんな時間まで。笹島さんも正也の調査ですか。」
笹島さんの手を自分で外して、俺は応える。
「おう、なんだお前もか。和泉は人使いが荒いな」
「俺正也の同級生なんで動きやすいんですよ。」
「そうか。えらいことだよ、まったく。こんだけ結界に守られてんのに忽然といなくなるとは。」
きびしい表情、まだ手がかりはないのか。
「なんだあいつ」
アパートの入口の方を見て笹島さんが言う。村山のことだ。
「正也の友達です。」
「何してんだ。」
「さぁ、でも正也がいなくなったのは知らないっぽいですけど。」
「お前声掛けてこいよ。」
「いや、まずいです。俺と正也そんな仲良くないんで、あいつは仲いい奴なんで。」
「はぁ。」
俺たちの関係性が理解できないようで、笹島さんは渋い顔をする。そんなやり取りをしているうちに、村山はアパートの敷地内へ入っていった。俺たちも間を置いて気づかれないように後に続く。
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