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あれから海とは会っていない。 あの後、謝罪のメールが来た。やっぱり俺の事が好きらしい。
だが、返信はしなかった。だいたい、なんと返せばいいんだ。許せる訳ない。あんなことをされて。思い出したくもない
あれ以来、台所をみると気分が悪くなる。一人で部屋にいるのもいやだ。いつもは放課後、まっすぐ家にかえっていたのに、最近は街をぶらついている。
お陰で、同じように学校帰りにフラフラしている友達が増えた。
その日は、天気がよかった。いつもと同じように学校へ向かって裏通りを自転車で走る。天気がいいのにこの裏通りは古い建物のせいか、いつも空気がどんよりしている。
それもいつものことなので、走り抜ける。
ギィィィィィィ、、、
金属の擦れるような音が響く。近くだ。
なんだ?
自転車を停めて音のした方を見る。道の反対側、建物と建物の間の路地。扉が開いている。
何かが出て来た。人だ。
フラフラとよろけたかと思うと、ドサっと倒れた。
小さい。
子供だ。
この辺りは危ないだとか、面倒に巻き込まれるだとかいろんなことが頭をよぎったが、俺はそれより先に自転車を放りだして人が倒れた方に走っていた。
駆け寄って、倒れた子供を抱き起こす。
「おい、大丈夫?」
うっすらと目を開ける。緑色の瞳。
「ん、、、」
意識はあるようだ。
「今、救急車呼ぶから」
携帯を取り出す。携帯を持った手を掴まれる。小さな細い手。
「待て、いい。」
子供は、俺を止めた。
「え、でも、、」
じゃあ、どうしたら。
「大丈夫。眠いだけ、、」
「は?」
「このまま寝かせて、、」
「おいっ」
子供はそのまま目を閉じて気を失ってしまった。
と思ったら、寝息を立て始めた。本当に眠ったらようだ。
俺は茫然とする。
なんなんだ、この子は。しばらく眺めていたが、このままここに寝かせておくわけにはいかない。いきなり眠ってしまう病気があるらしいけど、それなのかもしれない。
抱きあげて、この子が出て来たドアの中を覗く。人がいる気配はないし、音もしない。まさか、ここに住んでるのか。子供を抱えて、そっと中に入る。中はがらんとしていて、コンクリートの打ちっぱなし。高いところに窓があって光が差し込んでいるが、目線の高さから外は見えない。
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