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夕暮れの海は別れ話にはもってこいと言わんばかりの場所だった。
『別れよう。もう疲れたの』
『いや、別れるなら死ぬ。』
どれくらいこのやり取りが続いただろう。
私は仕方なく嘘をついた。
『好きな人が出来たんだ。』
その瞬間、薫くんは勢いよく海に飛び込んで行った。
入水自殺てこうゆうやつなの?と思いながら、名前を呼ぶ。
『薫くん戻ってきて、お願い』
真冬の夜の海、本人に死ぬ気がなくても、海が彼をさらってしまうかもしれない。
暗闇の波にどんどん彼は流されていった。
『薫くん!お願い戻って』
数十分後、運良く岸にたどり着いた彼。
大量の水を飲んでいる。
それを吐き出しながら大泣きしている。
『死ねなかった!死ねなかった!』
思わず壊れている、海水でびしょびしょな彼を抱きしめた。
『本当に死んじゃうじゃん馬鹿』
その日は実家近くのラブホテルに泊まった。
そしていろいろ語った。
そんな中の彼の一言が、『お金ためたから一緒に暮らそう』だった。
『一緒に暮らしたらもう束縛もしないし、家も見張らない』
確かに薫くんがおかしくなったのは元カレと住み始めてからだった。
私はちょっと考えて、頷いた。
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