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「無理に、とは言いませんが。」
「そういえばこんな言葉がありましたよね。」
「はい?」
俺は葛城さんの方を見てこう言った。
「ムリが通ればドウリが引っ込むって。引っ込めてみせますよ。その『ドウリ』ってやつを」
「いい志です。おや、着いたようですね。ここから先は彼女についていきなさい。彼女の方が詳しいので。」
「はい、ありがとうございました。」
「くれぐれも、お気をつけて。」
俺は船を降りて、葛城さんに一礼をした。そして船が出発すると、見えなくなるまで見送った。
「さて、行きましょうか。」
「えっと、あなたは…?」
「ああ、自己紹介がまだでしたね。」
そういうと彼女は胸元から名刺を取りだし、
「私は小鳥女学院の学院長、日下佳子と言います。」
「日下さん、今日はよろしくお願いします。」
「はい、こちらこそ、よろしくお願いします。それでは、こちらです。」
見た目はかなり若い人だが、なんでだろう、という疑問は心の隅に置いておいた。
―俺は日下さんと彼女の車に乗り、学院へと向かった。
「道中、大丈夫でしたか?」
「えぇ、まあ。」
俺は回りの景色を物珍しそうに見ながらそう言った。
「こちらには初めてで?」
「小さい頃に一度来ただけです。まあ、その頃のこともよく覚えてないのですが。確か、僕のおばさんの家に遊びに行ったんだったと思います。」
俺は苦笑いしてそう言った。
「へぇ、叔母さんが…」
「名前は…雪叔母さんです。」
「もしかして、冬森雪さん?」
「はい。でも何で?」
「うちの先生ですよ。」
俺は口があんぐり開いた。まさかこんなところで身内に会うなんて思いもしなかったからだ。
「へ、へぇ。」
「おやおや、知らなかったんですか?」
「教師をやっているのは知っていました。ですが、まさか小鳥女学院とは…」
優しかったが、怒ると怖い、いたずら好きな雪叔母さん。とても可愛らしい印象だった気がする。
「ならば、今日の案内は冬森先生に任せましょうか。…そうですか。あなたが彼女が言ってた卓也くんね…」
「僕のことを何て?」
「『小さくて可愛くて、お人形さんみたいで…あとあと、とっても優しいの!それでね、ほっぺたがぷにぷにしてて…』って30分くらい。」
「なんか色々すいません。」
聞けば、学院長は叔母さんと同級生らしい。なるほど、それはまだ若いわ、と思った。
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