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どうしてこんなに
人が多いのかしら?
ズッタン ズッタン
耳に慣れない音楽、心臓をダイレクトに打ってくるような低重音、その音に合わせるようにして踊る可憐な衣装の人々。
手に持つお洒落な紙袋を握りしめた。早くここから出たい。鼻につく甘ったるい香水に酔ってしまう。でも私が探している人は見つからない。というかあの人がこんな場所でバイトしているという事自体が信じられないのに。
「かのじょぉ」
ほら、知らない人が声をかけてきた。香水臭い。見るからにチャラチャラしてて嫌いなタイプの男。
「ひとりぃ?」
「…、そうだけど」
「なにしてんのぉ?踊らないのぉ?」
「知り合いを探してるの」
「知り合いぃ?」
「そ。ここでバイトしているはずなんだけど見つからなくて。だから悪いけど踊っているヒマなんてないの」
「なら、そこらへんにいるスタッフに聞いたらいいのにぃ」
「…あ、そっか」
「ねぇ?」
言われてみれば確かに。男が指を指しているスタッフは、休憩している客に飲み物を渡しているボーイの事。高級そうなバーテン服。
「ご意見ありがとうございました!助かりましたさようならっ!」
「あ、ちょっとぉ!」
話の一区切りがついたタイミングを計ったのに腕を捕まれて逃走失敗。いい加減鬱陶しくなってきた。
「名前も言わずにさよならはないんじゃないぃ?」
「…、カナンと申します」
「あ、どうもぉ」
「それじゃ」
「まぁ待ってよカナンちゃん!1曲ぐらい一緒に踊ろうよぉ!」
へらへら笑いながら私の腕を掴む力を強めてくる。まず踊れないし、こんな男と踊る気にもなれないわ!
「んもぅ、しつこいのぉおぉ!」
「いたたた!そんなに叩かないでよぉ、しまいにゃ僕怒るよぉ?」
「…っ!」
乱暴に胸もとのシャツをつかまれる。抵抗してみるけどもう駄目かも。
バシャッ
諦めたその瞬間、目の前の男は髪から水を被っていた。これこそ水も滴るいい男ってやつかしら。いい気味。
「あぁ、すいませんお客様。手が滑ってしまって…」
ポタリ、最後の一滴を床に落としたコップを握る1人のボーイ。薄暗い証明に光る目は据わっている。どうやら私達の騒動を聞きつけて助けてくれたみたい。迷惑かけちゃったな…。
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