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椹木さんと出逢ってから半年が経った。
連絡先も分からず、また会食に行くこともなく、彼に逢うことはなかった。
諦めかけていたとき、また彼に出逢った。
**********
「すみません。道をお尋ねしたいのですが…。」
会社から帰宅途中で、誰かに声をかけられた。
振り返ると笑顔の彼。
驚きと嬉しさで胸が苦しくなった。彼は私を覚えているのだろうか…。
「…はい。どちらに行きたいのですか?」
なるべく平静を装って聞いた。
「――――に行きたいのですが…。」
相変わらずニコニコしている。
「でしたら、この道を真っ直ぐ行って―――――そこが目的の場所です。」
あまり笑顔を見ないようにした。見てしまったら…苦しくなる。
「ありがとうございます。…美波さん」
その言葉に私は固まってしまった。
「…美波さん?」
不安そうな声にやっと反応出来るようになった。
「…覚えていて下さったのですね。」
そう言うと彼はにっこり頷いた。嬉しかった。たった一晩の出来事…忘れられて当然だったから。
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