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立橋は竜田の身滌をした後の病院にて、言った。誰かとの研究の競争のために自分らの身滌をサポートするのは嫌だと、それなら何も教えないと。
その時は立橋の刺々しい感情を丸め込むためにも、誰と競争しているとかそういう目的ではないと弁明した。
本当であると言えば本当だ。この身滌を始めた当初は、ただ単にデータを集計していただけで目的は特になかった。
しかし。
「お、きたきた……どうだい天文学部のエースの課題は」
「……あなたには関係ないわ。それに彼はエースじゃない」
職員室の席に着くと、隣から人を小馬鹿にするような低音の女性の言葉が投げかけられた。思わず小拝は悪態をつく。
ちょうど一年ちょっと前になって、そのデータの収集に目的が付くようになった。背凭れに深く体重を掛ける彼女、大祈 神楽(ダイノリ カグラ)は同じようなファイルを机に置いたまま、余裕綽々といった様子で小拝を見ていた。
「へぇー、じゃああれか、エースはやっぱり部長さん? それとも新規加入の会長さん?」
「全員よ」
「ひゃー呑気なこって。そんなんじゃ呑まれるわよ? 『ウチ』に」
「させないわよ。そのために合宿開くんだから」
「……残念ながら『ウチ』らの計画はもう始まったわ」
「え?」
ピタリと小拝の動きが止まった。
余裕ぶる小拝は、思わずその動揺を表に出してしまったのだ。
「私達、実はまた新たに部員を増やしてね。『彼女』のおかげで計画を大幅に改良できたのよ」
「彼女……って、まさか……」
周りの職員の蔑視の目など気にも留めず、二人は会話をする。その小拝の目は戸惑いが顕著に滲んでいた。
「そ。例の転入生。彼女をウチら地質学部に迎えさせてもらったわ」
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