第一章 呉越同舟

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「僕はこの記念祭を快く思いません」  キリッと大人びる一人の女の子は、熱く拳を握った。神鏡 神那(カカガミ カンナ)はここぞとばかりに歯を食い縛った。 「ほうほう。それは一体何故でしょう?」  そんな彼女の口元にマイクを真似て手を差し出す。同じくキリッと真面目な雰囲気を作った雛形 陽菜乃(ヒナガタ ヒナノ)は、自分を僕と呼ぶ神鏡の言葉を待った。 「言うまでもありません! 大幅値上げアップと銘打っておきながら、結局一万円しか上がってなかったなんて! 聞いた瞬間大喜びした僕達がピエロみたいじゃないですか!」 「そうだ! 私達が抗議するのは自然以外の何物でもない! こんな独裁政治は一刻も早くひっくり返すべきだ!」  立ち上がり、白熱した神鏡の演説に触発されてか、雛形も便乗して声を張り上げた。 「……で?」 「わぉ! 酷い! 一言で私達の悲痛な叫びが潰された!」 「一言どころか、たったの一文字だな」 「お前は入ってくんな」 「いつから弄られキャラになったんだ俺は」  燃え盛る瞳を一変させた雛形の冷やかな視線で、西金 龍一(サイガネ リュウイチ)の心は二人の演説以上に呆気なく挫けられた。  その茶番劇を鬱陶しそうに眺める佐保姫 玲奈(サオヒメ レナ)は、壁に掛かる時計を見て再び眉を潜めた。 「遅い……何をしているのかしら」 「あー、あいつならまた補習を……」 「西金君は何でただの独り言に食い付いてくるのかしら?」 「補習だよ」 「また、か……仕方ないわね」 「泣かないよ。だって男の子だもん」  と言いつつ部室の隅で床を寂しくなぞる西金は、いつからこんなに扱いが酷くなったのか、と溜め息を吐く。  いつから。そんな事は分かっている。西金と同じような返事をした春山 凪沙(ハルヤマ ナギサ)がこの天文学部に入部した日からだ。
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