第一章 呉越同舟

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 そして西金のキャラの扱いの変更と共に、部室を行き来する人間も大幅に増えた。と言ってもただ単に佐保姫と春山が入部したと同時に、幽霊部員だった人間も来るようになったからそんな気がする、というだけなのだが。  少し腰を動かすだけでギシリと音を立てる椅子から立ち上がり、佐保姫は気だるそうな目付きで扉へ向かった。 「あれ、どこに行くんです?」 「遅いから生徒会室戻るわ。私もこの時期は忙しいから」  開校五十周年記念祭。そう率直に名付けられたその催し物は、生徒会主催となっている。  基本的には文化祭とさほど変わらないのだが、それと違うのは最低限の道具以外は各々のクラスの人間が金銭面を均等に工面する。だから一年の間に文化祭と記念祭を両立できる事になった。  これは佐保姫の案だ。最初は職員からの反発ばかりであったが、熱意に徐々にみな折れていった。  佐保姫という生徒は、一騒動起こした事があるものの、いわゆる模範生だ。つい先日まで入院をしていたのだが、それも不慮の事故であり、佐保姫には何ら非はない。  だから佐保姫の案は可決された。  廊下を出て、橙がかった陽光がその先を照らす。以前までの佐保姫は、その光景が何も変わらないただの日常だと思っていた。  しかし今は違う。この平和を安泰へと導く事。それが自分の仕事であり、そう気付かせてくれたのは敬意を表して入部を決めた天文学部の部員達だ。  会話は何ら一般人と変わらない。今しがた下らなすぎるやり取りに巻き込まれてきたばかり。  以前の佐保姫ならきっとただ鬱陶しく思っていただけだ。  確かに今も鬱陶しいとは感じた。しかし居心地は悪くなかった。  これが仲間か、と甘ったるい自覚に嘲笑する。我ながらこんなに棘が取れた自分が気持ち悪く感じる。  しかし幸せだ。ただ漠然と会長としての、正義としての誇りを持って断罪に踏み切っていたあの時より、仲間と同じ目線で何かを守る方が、よっぽど生きているという心地好さを感じられる。
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