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「こんにちわ。……あれ? ずいぶん閑散としているわね」
「あ、こんにちわ」
辿り着いた生徒会室の扉を開ける。そしてまず最初に、この忙しい時期にも関わらず一人しかいない生徒会役員を皮肉った。
唯一パソコンと睨み合いながら手紙を作成する男子が返事をした。
「こんな忙しい時期なのに……今日来てるのは表裏君だけ?」
「はい……先輩方は先にお帰りになりました」
生徒会の事務を手伝う表裏 叶希は、ひたすらパソコンと睨み合っていた。
まだ入学して三ヶ月に満たない表裏は、十月に行われる生徒会選挙までは暫定的な役員候補として生徒会の事務を手伝っている。入学式の日にいきなり生徒会室に来られては、佐保姫ですら門前払いなどできやしない。
「その手紙は?」
「あ、記念祭当日の日程表です」
「まったく……一年生にこんなの押し付けるなんて、今の役員はたるんでるわね」
「あはは、そうかもしれませんね」
穏和な笑みを浮かべながら、不慣れな手付きでキーボードを叩く。懸命に苦手とする機械に挑む表裏には、やはり好感が持てた。
生徒会長の席へ座る。自分がしなけらばならない仕事は当然のように終えてしまったため、来たはいいがやる事がない。
カタカタと不規則にキーボードを打つ音だけが響く生徒会室は、何だか気まずかった。
「……表裏君は部活出なくていいの?」
「あはは、うちの部活、割と活動する日が不定期でして……」
「ふーん……天文学部は単純に天体観測や調べ学習をやるくらいだけど、地質学部はなかなかねぇ……」
頬杖を突く佐保姫に、表裏はひたすら背を向けたまま相槌を打つ。
その後ろ姿は、やはり佐保姫から見たら役員の鏡とも言える真面目さが滲み出ていた。
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