一章

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 結衣は現代文の教科書やファイルを机の中にしまい、代わりにクリアファイルを取り出した。そこに挟まった時間割の用紙を眺めて次の科目を確認する。数学。  次の科目の準備をしながら時計に目を向け、言った。 「もう席戻んなよ。先生来るよ?」 「……バイトは?」 「だからやだってば。つか無理」 「今回は労働じゃないんだっつの」 「しつこい。嫌なものは嫌」  結衣はきっぱりとそう言い切る。断固として、意志を曲げる気はなかった。  ふいに凪紗が立ち上がり、結衣に背を向けた。  ようやく諦めて、席に戻ってくれる気になったのか。  けれども凪紗は往生際悪く、結衣に背を向けたままこう呟く。 「あーあ、残念。せっかく透(とおる)、誘ったのに」 「えっ? 透くんもそのバイトすんの?」  結衣は思わず目を見開いて、そう尋ねた。凪紗の口から出た名前が、あまりにも意外すぎて。
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