国王からの依頼

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拳を振り上げた格好のまま、レネイドが終わりを告げると、トウヤが口惜しげに顔を歪める。 そんなトウヤを見て、レネイドの口元が薄い笑みを作ったかと思うと、何を思ったのか、レネイドは拳を解いて、トウヤに手を差し出した。 「トウヤ。これまでの無粋な話し方や態度は、今の悪あがきで水に流してやる。そして、今からが正しい……“杏子”の為の、話し合いの時間だ」 そう言って手を差し出すレネイドを、トウヤは少しの間、不思議そうに見上げ、ニヤリと笑ってみせる。 「そりゃ、有り難いな」 そう言いながら、レネイドの手を取って立ち上がったトウヤを見て、ヤタやノージス達は、得体の知れないモノでも見るような目でトウヤを見つめ、シェインや棗はホッと安堵の息を吐く。 そして、立ち上がったトウヤは急いで倒れているミリィに近付き、ミリィに手を貸して立ち上がらせた。 「大丈夫か?」 立ち上がったミリィに、トウヤが心配するような声を掛ける。 すると、ミリィは何とも言えない渋い表情をしながら頷いた。 「あのレネイド様と戦って、生きてるだけでも不思議なのに、未だに生意気な話し方をしてる貴男って……」 それこそ呆れているような、感心しているようなミリィに笑いかけながら、トウヤ達は小声でこう言った。 「あの、レネイドってドラゴンはさ……。多分、筋が通らない事を極端に嫌うんだろう。だから、こうやって“人間側から話を聞いてくれ”って無理やり言われたから、話を聞くって態度を取った方が、話しやすくなると思ったんだ」 それこそ、トウヤの直感や思い付きの類での話であり、ミリィ達からすれば、巻き込まれた以外の何ものでもない話なのだが、ミリィは最早何も言わなかった。 そして、トウヤ達は、再びレネイドの前に集まった。 「話し合う前に伝えておく。私は、人間が嫌いだ。だが、今回の場合は、不本意極まりないのだが、私達ブラウンドラゴンが絡んだ話でもある。そうだな? ノージス」 有無を言わさぬレネイドの問い掛けに、ノージスは遂に覚悟を決めたらしい。 先程まで、トウヤ達が戦っていたのを見て、ヤタに抱き上げられたまま、震えて泣いている杏子を一度見た後、俯いたノージスが、重い口を開けた。 「杏子は、1年前に魔法陣に取り込まれたアストンの忘れ形見です」
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