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「ううううう~」
手紙を読み終えた途端、棗が泣き始める。
ミリィも同じように、涙目になってはいたが、杏子を抱き締めていたおかげか、涙は流していない。
その代わりに、トウヤの服の袖を掴んでいた。
「最期まで、この人は信じ続けたんだな……」
手紙を読み終え、そう呟いたトウヤは、杏子を見て、残酷とも思える事を問い掛ける。
「杏子。お前のお母さんは、どこに居る?」
「「トウヤ!」」
問い掛けた途端、ミリィと棗が声を荒げたが、トウヤは真剣な目をして2人を黙らせ、再び杏子に目を戻す。
問い掛けられた杏子は、不思議そうな顔で言った。
「お母さんはね、向こうの海のお家で、お父さんを待ってるんだよ。それでね、杏子は、お父さんが帰って来たら、一緒にお母さんの所に戻るの!」
杏子の笑顔が、その場にいる全員の胸を締め付ける。
そんな中、トウヤは杏子に近付いて、静かに告げた。
「杏子。お父さんも、お母さんも、もう杏子と会えないんだ」
誰かが伝えなければいけない。
まだ3歳の少女には、辛過ぎる事実だったとしても、伝えなければいけないのだ。
そう思ったからこそ、トウヤは真っ直ぐに杏子の目を見て、もう一度言った。
「杏子。もう二度と、杏子は、お母さんや、お父さんに会えないんだ」
子供というのは、どうしてこれほど敏感なのだろうか?
トウヤが伝えた事が、事実なのだと、杏子の心の何処かが認識したのだろう。
杏子は、ジッとトウヤを見つめ返したかと思うと、つぶらな瞳に涙を溢れさせ、ミリィの肩に顔を埋めながら泣き叫ぶ。
「嘘吐き! お母さんは、杏子に言ったもん!
『待ってるから、お父さんと一緒に戻っておいで』って、杏子に言ったもん!
杏子は、お父さんと一緒に、お母さんの所に帰るの!」
涙声でトウヤに言い返す杏子を見て、棗はますます涙を流し、杏子の様子を見かねたシェインは、杏子から目をそらす。
その間も、杏子はずっとトウヤに「嘘吐き!」と言っては泣き続ける。
そんな杏子から目をそらさず、トウヤはノージス達に話し掛けた。
「ノージス。アンタは、杏子に『死ぬ』って事の意味を、教えなかった。それは、まだ小さな女の子には、辛い事だと思っての事だろう?
でも、杏子は両親が死んだ事実を、理解しなきゃいけない。理解した上で、アンタ達が“新しい家族”なんだって事を、受け入れなきゃいけないんだ」
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